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異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~ (GAノベル)
★1つ (満点は星5つ)
見出し:不気味な小説
本文:
つまらなかった。
設定は、凝っているようで穴がある。
セリフも煉ってあるようでチグハグである。
不気味な小説だと思った。
★設定の不思議
・「Tactics Chronicle」…人間の王(プレイヤー)が魔物の国民を率いて戦う、全感覚投影式の仮想現実体感型ゲームである。しかし、プレイヤーに戦闘能力はない。配下(NPC)に命令を下して戦闘させるゲームで全感覚を投影する必要はあるのだろうか? 本書の中では、主人公は仮想ウィンドウをイジったり、声で命令したり交渉したり、歩いたり、魔物に運ばれたり、ポーションを飲んだり、魔法の小袋から物を取り出したり、殴られて殺されたりしている。転移の後も転移の前もほぼ同じなのだとすると、戦闘能力無しの仮想現実体感型ゲームは楽しいのか?
★反乱システム
・Tactics Chronicleには「反乱システム」があり、革命が成功するとゲームオーバーになるらしい。
・なろう小説やライトノベルでは、主人公以外のキャラクターが集まって主人公讃美合戦を行うことがよくある。この作品にもそのような場面があり、反乱の可能性がどの程度のものなのか読者には見当がついてしまう。結果、反乱を恐れる主人公に全然共感できない。
★都合よくバカになる主人公
・主人公は、離れた地にいる配下と文字会話で通信する能力を持つのだが、ハーフエルフの集落にいる時にこの能力を使い、自国で反乱が起きたという知らせを受け、急遽アルキマイラに戻る。その後、主人公はオーガの死体の攻撃で殺され、軍団長全員に会い、その間にハーフエルフの集落は襲われる。もしハーフエルフの集落にいる時点で主人公が反乱の詳細を尋ねていたら、このような展開はありえなかった。謁見が無くなると「アルキマイラ」の仕込みも不可能になる。
・ある時は、敵の勢力が分からないから慎重に動こう、自分は王だから他国より自国を優先して行動しなければ、などと言って弱小国家を見捨てる。別の時には、慎重に動いていたら間に合わない、勝てる保証はなくても国家として動く理由があれば問題ない、健気な姉妹は見捨てられない、などと言って他国の戦争に介入する。感情(あるいはプロット)によって都合よく意見を変えるのは、読んでいて納得できなかった。
★キレる良識的日本人
・主人公は自称良識的日本人である。
・主人公は、あと4回死んでも大丈夫。フルネームが分かってる自国民と属国民は、死後24時間経過していなければ、2回まで復活できる。配下(自国民と属国民)が転生すると、その個体の死亡回数はリセットされ、再び2回まで復活できるようになる。
・主人公はハーフエルフの少女が殺されたと知ってキレてエルフに宣戦布告するのだが、少女の死を知る直前までは「一刻も早くハーフエルフたちを奪還し、一秒でも早くこの場を離れ」ようと考えていた。(329頁) ハーフエルフの女王(少女の母)の無慚な死体を見ても開戦する気にはならなかった。
・ハーフエルフの少女の死を知って開戦したのは、ハーフエルフの国がアルキマイラの属国になった後であり、少女のフルネームが分かればその場ですぐ生き返らせることができた。(実際、エルフ虐殺後に蘇らせている。) 主人公がキレなければ戦争しなくても何とかなったかもしれない。良識的日本人を自称する人は好戦的なことが多いので気をつけよう。
★主人公の思考がプロットに操られている
・色々調べたところ、この作品はエステルドバロニアという小説のWeb版のパクリだという。読んでみると、確かにそっくりである。
・エステルドバロニアのプロットをなぞるために、主人公の思考がめちゃくちゃになっている。
★人工国家
・「彼の国は多くの種族が共存する多種族国家であり、その成り立ちの経緯から相互扶助の建国理念、弱者救済の尊い精神性、そして最後の最後まで諦めることのない不屈の国民性を有している。これらは我が国の思想と大いに通じるモノがあると言えよう。」(282頁、主人公のセリフ、彼の国とはハーフエルフの国のこと)
・上に述べたように「Tactics Chronicle」は人間の王(プレイヤー)が魔物の国民を率いて戦うゲームであり、必然的に多種族(最低でも2種族)から成る国家しか存在しないのだが、主人公はなぜか「多種族国家」であることを誇っている。自分が作ったわけでもないゲーム・システムを誇ってどうする。
・292頁〜294頁にTactics Chronicleにおけるアルキマイラの戦略が書かれている。国家と国家の相互扶助、運営が嗾ける災神からの弱小国家の保護など。Tactics Chronicleでは、そうした活動を怠ると他の全ての国家が敵に回り、大国であっても滅びてしまうらしい。そして、アルキマイラは上手く立ち回って世界の覇者となった。国内に関しては、300頁には「「手と手を取り合い戦うのだ!…略…」」というセリフもある。しかし、配下の魔物が信念を持って協力し合っている描写は無い。
・転移前のゲームに「ギルド」のようなものが存在するという話はなく、アルキマイラは主人公1人で運営していた。上のセリフの相互扶助、弱者救済、不屈云々がアルキマイラの思想に通じるとはどういうことなのか? ゲーム・システム的にそのような外交戦略が有利だったという意味か、あるいは主人公がそのような思想を抱きながらロール・プレイしていたのか? よくわからん。
★Make アルキマイラ Great Again
・主人公が国民の前で演説を行う。国力が転移前の100分の1程度になって大変だけど、我が国はこれまでも幾多の試煉を乗り越えてきたのだから、今回も外国と戦争して困難を乗り切ろう、という演説。
・異世界に転移するまではゲームであった、という歴史の裏を知る者にとっては、アルキマイラが乗り越えてきた数々の戦争は全て遊びであり、特別な大義を見出だせないものである。自然、演説部分を読んでも感動できない。
・別のなろう小説(オーバー■ード)では、古参の魔物が新参の魔物に歴史を教えるという形をとっていた。ゲームの中で育った魔物にゲームの歴史を語らせると自然な感じになるのかもしれない。また、同小説の主人公の懐古には、人間であるギルド・メンバーがしばしば登場し、この友人の存在が同小説中の戦闘行為にそれなりの名分を与えていた。翻ってアルキマイラを見ると、ゲームの外で生活していた主人公がゲーム内の「個人経営」国家の歴史を熱弁している。どうにも間抜けな感じ。
★害獣認定
・主人公は、人間とハーフエルフを迫害・虐殺しているエルフは「人」ではなく「害獣」なので根絶やしにして良い、と考えた。そして、逃げ道を断って皆殺しにした。
★Web版と大きな違いは無い
・Web版のプロローグは収録されていない。他にも修正はあるのかもしれないが、気づかなかった。
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Amazonで「参考になった」が60くらいついていたレビューが消された。
出版社や同胞が頑張っているのだろうか。それとも、ネタバレが多すぎたか…。